
このサイトの全ての文章の無断転載を禁じます!!「すごい、言葉が出たね」
”些細なこと“もビッグニュースに
胸熱くなる子との触れ合い小野 浩(仮名=養護学校教諭) 2000年 月 日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載
「すごい、言葉が出たね」
昼休みの出来事です。持病の発作のあるA子さんにいつもの薬を飲ませていました。A子さんが私の足をギュッと踏んだのです。ときどきA子さんが私に対してやる行為です。
A子さんが私の足を踏むと、私は「いていていて、痛いなあ」と大げさにふざけて言います。するとA子さんは大喜びで笑うのです。(これもコミュニケーションの一つだ、と思っています。)
ところが、その時です。A子さんも「いて!」と叫んだのです。A子さんが言葉を発するのを初めて聞きました。私は聞き間違いかと思いました。しかし、この時教室にいた他の先生もこの言葉を聞いていました。間違いありません。
私はヘッドギアの上から頭をなでながら、「A子さん、すごいなあ。言葉が出たね。」と言いました。こんな些細なことがビッグニュースになるのです。
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私は十一年間小学校で勤めた後、三年間、知的障害の子供たちが学ぶ養護学校に勤めたことがあります。このA子さんたち養護学校の子供たちと初めて出会ったときのことを振り返ってみたいと思います。
■身引き締まる思い■
新年度の初日、学年・学級の発表がありました。私は小学部五年二組の担任になりました。五年生は十三人。教員は六人です。つまり、一学級に三人先生がいるのです。一人の先生が二〜三人の子供を見ることになります。
二日目、初めて学年会(学年の先生方と打ち合わせをする会)がありました。持ち上がりの先生が二人いたので、昨年度までの子供たち一人ひとりの様子を詳しく聞きました。
例えば、こちらの指示の言葉や話が理解できるか、言葉を発することができるか、トイレでの排せつは一人でできるか、歩行は介助が必要か、衣服の着脱は一人でできるか、食事はハシを使うかスプーンを使うか、目を離すとどこかに行ってしまわないか、発作はあるか、パニックに陥ることはないか、…等々。
こういう話を聞いていると、自分は養護学校の先生なんだと、改めて身の引き締まる思いがしました。
七日目に体育館で新任式がありました。新しく赴任した先生方が全校の子供たちの前で紹介されます。私は壇上でちょっと緊張しながら、自分の受け持つ子供たちを見ていました。
こちらをじっと見ている子もいました。きょろきょろしている子、泣き叫んでいる、先生にだっこされている子もいました。
壇上から見る光景は小学校の時とは全く違っていました。なぜか胸が沸々と熱くなるのを感じました。
大学を卒業し、初めて小学校に赴任した初任のころを思い出しました。
■心地よい疲れ感じ■
式が終わると、体育館から子供たちと手をつないで教室へ向かいました。
教室では、五年生の子供たちの前で自己紹介をしました。私はこんな風にお話をしました。
《みなさん、始めまして。先生の名前は小野浩といいます。今日は先生の好きな物を持ってきました。みんな知ってるかな?
(清水エスパルスのビッグフラッグを見せ、帽子も被ってみせる)先生はサッカーが大好きです。これから一緒に仲良く遊んだり勉強したりしましょう。よろしくね。》
こういう自己紹介で、子供たちがどれだけ分かってくれるか心配でした。言葉の分からない子もたくさんいるのです。しかし、子供たちは結構興味を示してくれました。じっと私の方を注目してくれたのです。ある子はにこっと笑い、自分の席を離れ旗を振ろうとする子もいました。
この日は午前で活動は終わり。帰りの支度をしてスクールバス乗り場まで連れて行き、見送りました。
子供たちとの”出会いの日“、心地よい疲れを感じることができたのでした。
出会いの序章ー養護学校